電子ビーム穴あけ

工業技術
スポンサーリンク

電子ビーム穴あけ加工は、電子ビームによる金属の溶融・蒸発による穴加工方法で、非接触加工の一つです。
電子ビーム溶接のEBW(Electron Beam Welding)に対して、EBPやEBDと呼ばれます。
EBPがElectron Beam Perforation
EBDがElectron Beam Drilling
の頭文字をとっています。

電子ビーム加工の祖であるSteigerwald博士が設立した電子ビーム加工機メーカでは最近Drillingが採用されています。
Drillingは工具(ドリル)を使う接触加工のイメージが強いので、ここでは、EBPを主にします。

スポンサーリンク

加工原理

出典:https://www.sst-ebeam.com/en/application-areas/drilling.html#sigplus_1001-2

電子ビーム穴あけ加工では、Backing Material(バッキング材)という材料を、加工対象に対して電子ビームの照射と反対方向に配置します。【上図の左から1番目】
電子ビームの照射により、加工対象は溶融(一部蒸発)します。これだけでは、穴は開かずに溶融した金属がビームの貫通した部分に解けて溜まるだけで完全には穴が開きません。【上図の左から4番目】
バッキング材に電子ビームが入ると、バッキング材は激しく気化し、穴内部の溶融金属をビームが照射されている側に吹き飛ばして完全に穴があきます【上図の左から5~6番目】。

加工後の状態

バッキング材は蒸気圧が下がる真空中での加工であることを利用したもので、レーザー加工におけるアシストガスに相当します。
レーザー加工では、レーザーを入射する方向からガスを出すので、入射と逆側に溶融物によるバリが発生します。一方、電子ビーム穴あけ加工では、電子ビームの照射側にバリが発生する違いがあります。

EBPの特徴

EBPの特徴など概要は、国内ではじめてEBPジョブショップ(受託加工)を商用ベースに仕上げた大平洋特殊鋳造株式会社の国宗氏記載の記事がよくまとまっており、参考にしてください。

電子ビーム穴あけ加工の難しさ

電子ビーム穴あけ加工は、電子ビーム溶接に比べて扱いの難しい加工です。
電子ビーム溶接機が航空機や自動車産業で普及したのに対して、穴あけ加工が一般に普及しにくかったのは用途が限定的であるのに加えて、「使いこなせない
」「加工したもの処置ができない」などにあると考えます。

穴あけ装置特有の原理理解

連続的な照射を主とする溶接と異なり、穴あけ加工ではパルス化が必要です。
電子銃部分にはビームを高速でパルス化する機構が追加されています。
また、電子銃部分は加工室より低い圧力(高真空)に保たないといけません。穴あけ加工が先述のように溶融した金属の「吹き飛ばし」であることから、溶融金属の一部が電子銃部分に侵入し汚染され真空度を含めて電子銃部分の状態が時系列で悪化することが想像できます。
穴あけ加工機を使いこなすためには、加工原理と装置原理・機構の深い理解が必要です。

メンテナンス技術

穴あけ加工機は電子銃部分を汚染しやすい加工方法であることは先述のとおりです。
特に、「焦点の性情=電子ビーム焦点の性情」であることから、電子ビーム焦点性情を決めるコイル類のメンテナンス(清掃)とフィラメントの位置合わせは重要になります。

条件出し技術

電子ビーム穴あけ加工は他の加工と同様、本番の加工前に「条件出し」を行います。大きく分けて加速電圧、電流、照射時間、各コイルの電流値でしょうか。
ここでの条件出しで見るべきところは
❶現状で良い性情をえられているか
❷❶の条件が限定的ではないか
です。特にむずかしいのは❷で、電子ビーム穴あけ加工は加工機(電子銃部分)の条件が時間経過とともに変化しやすいです。❶の現状だけでなく、加工時間全域にわたって良い加工ができる安定した条件選定❷が必要になります。
これは、過去にどれだけの条件出しを行ったかの経験値が必要になります。

後処理技術

溶融物が飛散する際に、穴の周囲に溶融金属のバリ(ミルクの王冠みたいな形状です)が発生します。
電子ビーム加工の加工対象しては、ステンレスや耐熱合金が多くなりますが、これらの金属は柔らかくねばいです(※ステンレスが「柔らかくてね ばい」というのは金属加工に携わっていない人には想像つかないかもしれませんが)。
バリを取るために単に機械的に研磨しても、バリは穴に埋まるだけで除去できません
金属と後処理方法の特性を含めて理解していないと、正常な製品を生み出すことはできません。

推奨するジョブショップ

先項で説明したとおり、穴あけ加工機は加工機の複雑さもさることながら、加工機を使用する側の
・メンテナンス技術
・オペレーション技術
・後処理技術
が伴わないと製品となりません。

上記条件を高いレベルで実現しているのが、大平洋特殊鋳造株式会社だと思います。
同社は30年にわたりEBP加工機を所有しており、主体は耐熱金属などの特殊金属の鋳物製品を扱っており後処理に関わる知識や技術にも精通しています。

工業技術理工・科学系
スポンサーリンク
スポンサーリンク
シェアする
SATORINをフォローする
スポンサーリンク
みっどないとぱーぷる

コメント

タイトルとURLをコピーしました